テキストを一生懸命に読んでいるのに、知識が一向に記憶へ定着しない……」
「もっと効率よく覚えたいのに、いつまでも頭に入らない……」
こうした勉強の悩みを抱えているなら、「アウトプット」にぜひ力を入れてみましょう。なぜ勉強にアウトプットがおすすめなのか、その具体的なやり方もあわせてご紹介します。
勉強ではなぜ「アウトプット」が重要なのか
「アウトプットって『問題を解く』ことでしょ? 別に資格をとりたいわけではないし、アウトプットなんて自分には関係なさそう……」そう思っていませんか。
そもそも、アウトプットとはなんでしょう? インプットとアウトプットの本質は次のようなものです。
インプット:頭のなかに「入れる」こと
アウトプット:頭のなかから「出す」こと
情報を「頭のなかから出す」とは、言い換えると「思い出す」こと。勉強では情報をどんなに頭のなかへ入れても、それを頭から出せなければ意味はないといいます。
たとえば、資格試験の勉強をする場合、知識をいくら頭に詰め込んだところで、本番の試験で実際に思い出せないかぎり、点数はとれません。それゆえ、勉強では「思い出す機会を多く設ける」ことが重要です。
思い出す機会を多くつくるには、試験勉強をする人であれば「問題を解く」ことが適しているでしょう。試験とは関係なく、単に本を読んで勉強するだけの人なら、「思い出しながら紙に書き出す」「声に出しながら思い出す」など。さまざまなやり方で、アウトプットの機会は設けられるのです。
なお、脳科学的にも、アウトプットは有意義だと言えます。東京大学薬学部教授で脳科学者の池谷裕二氏によると、インプットだけを繰り返すより、たくさん思い出してアウトプットするほうが、記憶力が鍛えられ、内容を覚えやすくなるそうです。
上で述べたように、アウトプットの方法はたくさんありますが、特におすすめなのは、紙に書き出すこと。脳科学者の桑原清四郎氏は、手書きはタイピングに比べて指先の動きが複雑なため、脳がより刺激され、集中力や記憶力が高まると述べています。
では、具体的にどのようなことを紙にアウトプットすればよいのでしょうか?
紙にアウトプットすべきこと【1】「まとめ」
アウトプット内容としておすすめのひとつが、勉強内容のまとめです。
勉強した事柄について「つまりどういうことか」と内容を端的にまとめてから、知識を吸収するべきです。
テキストに書いてある知識を “そのまま” 覚えるのではなく、「テキストに書いてある知識をいったんまとめてから、“まとめたこと” を覚える」ということ。テキストの内容を本格的に覚えるために、ひとまずインプットできた内容を「いったんまとめる」というかたちでアウトプットする――そんなイメージでしょうか。
記憶できる情報量は限られていて、テキストの内容をすべて正確に丸暗記することなどできないから。以下のポイントを意識すると、適切に “圧縮” できるそうです。
- なくても文意が変わらず文章が成り立つ言葉は、削除する
- 複雑な言葉は、よりシンプルな言葉に置き換える
- 残りの文章から連想できる内容は、省略する
上記のポイントを意識しつつ、筆者も仕事で必要な動画制作の知識をつけるため、本の内容をまとめるアウトプットを実践してみました。
専門用語が多かったので、「ファンタム電源」を「専用の電源」に書きかえるといったように、簡略化を意識しています。短くまとめるだけでなく覚えやすい言葉に変換するプロセスを経たことで、記憶しやすくなったと感じました。
最後には、ぐっと圧縮することにも挑戦。本10ページ分の内容が、2行ほどにまとまりました。「仕事に活かすには、何を確実に押さえる必要があるのか?」と考えながら、勉強の最後にいわば「まとめのまとめ」を書いたことで、学んだことが強く印象に残った実感もあります。
情報をコンパクトにまとめる習慣をつけると、学習内容を忘れずにすみそうなので、これからも意識していきたいです。
紙にアウトプットすべきこと【2】「感想」
「ビジネス書に載っていたあの交渉術、興味が湧いたから具体例をもっと知りたい」
「円高と円安がいつもごちゃごちゃになる。覚えるのが難しいな……」
このように、勉強中に感じたことをアウトプットするのも記憶の定着に有効です。なぜなら、感想を一緒に書くと、学習内容がエピソード記憶として残るから。
エピソード記憶とは、個人が体験したことに関する記憶で、“思い出” に近いもの。時間や場所、感情など付随情報が多いのが特徴です。
エピソード記憶は脳に深く定着しやすい記憶であるため、勉強に積極的に活用すべきです。
東大生のノートにも、勉強中に感じたことが書かれている――おもしろいと思ったことや疑問点をメモしておくと、それが “とっかかり” となり、記憶を強固にできるといいます。
効果のほどを確かめるため、論文を読みながら感想をノートにアウトプットしてみました。
テーマは、日頃から勉強している日本文学。今回読んだのは「宮沢賢治作品の造語」に関する論文です。これまでは、勉強しても内容をいつの間にか忘れてしまっていたので、アウトプットを通して覚えることを目的としました。
感想は吹き出しで囲み、ほかのメモと区別できるようにしています。たとえば「造語は地名をヒントにしているものが多い」など、おもしろいと感じた点を感想として書くようにしました。
すると、宮沢賢治作品を読んで造語を見つけるたび、論文で学んだ内容を簡単に思い出せるようになったのです。「この造語は、何が語源になっているんだろう」「そういえば、あの論文では、地名がヒントになっているものが多いと書いてあった」と、感想が内容を思い出す手がかりになりました。
すばやく確実に勉強したことを定着させたい人は、ぜひ感想をアウトプットしてみてくださいね。
紙にアウトプットすべきこと【3】「覚えたこと」
学習内容を覚える手段として「1分間ライティング」をすすめています。
1分間ライティングとは、覚えていることを1分のうちにできるだけたくさん書き出すアウトプット手法です。覚えていることを書き出すと、頭のなかを「見える化」できます。
勉強した内容を正確に書けていれば、それは記憶がきちんと定着しているということ。一方、「なんだっけ?」となってしまってあまり書き出せなければ、まだ覚えきれていないという意味になります。そこがすなわち、要復習箇所となるのです。
また、「1分」という制限時間を設ける理由は、「使える記憶」にするためだそう。限られた試験時間のなかで、勉強したことをすばやく思い出して解答する。本で学んだコミュニケーション術を、現場で即座に思い出して実践する。そういった、本当に使える記憶を形成するために、「すばやく思い出してアウトプットする練習」をすべきだとのこと。
そこで、1分間ライティングを行なってみました。ダイエット検定の試験対策テキストを読んだあと、タイマーをセットして、学習内容を紙にアウトプットしました。
実際のところ、1分間では、想像以上に書き出せないことがわかりました。特に筆者の場合、数値を誤って覚えていたことが判明。反対に用語は正確に書けたので、次回は細かい数値を復習すればよさそう……というわけで、数値の部分を重点的におさらいし、もう一度1分間ライティングを行ないました。すると、以下のように結果が改善したのです。
2回めは、焦りながらも正確な数値を書き出せました。思い出す速度も上がったのか、書き出せた用語の数も1回めより増えています。
このように、苦手な部分をピンポイントで復習しながらアウトプットできるので、勉強効率アップにつながります。「どこまで覚えられているのかわからない」「全範囲を毎回復習していて効率が悪い」と感じている人は、ぜひ試してみてください。