「行動デザインシート」とは
ある行動を習慣化したいときに、ぜひ使うとよいフォーマットがあります。それは「行動デザインシート」です。以下2種類の自分自身の行動を観察・分析して、習慣化の方法を探るためのものです。
- 今後増やしていきたいけど、いまは足りていない「ターゲット行動」(不足行動とも呼ぶ)
例)勉強、運動、読書 - 今後減らしていきたいのに、いまはやりすぎてしまっている「ライバル行動」(過剰行動とも呼ぶ)
例)ゲーム、甘いものを食べること、動画視聴
「勉強しなければならないのに、ついゲームに時間を奪われてしまう」というように、理想の行動と、それを妨げる行動をセットにして、
- ターゲット行動を増やすにはどうしたらいいか?
- ライバル行動を減らすにはどうしたらいいか?
という対策を、下のフォーマットに書き込みながら考えていきます。
具体的な分析方法は実践例とともにご紹介するとして、次は、行動デザインシートが勉強の習慣化に効果的である理由を解説しましょう。
「行動デザインシート」が勉強の習慣化に効く理由
行動デザインシートが勉強の習慣化に役立つ理由について以下の通りです。
- ターゲット行動(=増やしたい行動)を分析すると、「その行動を少ししかできていない理由」がわかる。
- ライバル行動(=減らしたい行動)を分析すると、「その行動を多くしてしまっている理由」がわかる。
- ⇒上記の分析をもとに、ターゲット行動を増やしたいならライバル行動をヒントに、ライバル行動を減らしたいならターゲット行動をヒントにすることで、行動を改善できる!
いったいどういうことか、「勉強とスマホゲーム」を例にとりながら説明しましょう。ターゲット行動とライバル行動には、以下の特徴があるそうです。
ターゲット行動の特徴(例:勉強)
- 行動に移すのが大変(テキストやノートなどの準備が必要)
- ライバル行動がある(ついゲームをしたくなる)
- すぐに成果が見えない(知識の定着に時間がかかる)
ライバル行動の特徴(例:スマホゲーム)
- 行動に移すのが簡単(アプリを起動するだけでいい)
- より強力なライバル行動がない(ゲームをプレイするのが一番楽しい)
- すぐに成果が見える(その場で満足感が得られる)
このようにそれぞれの行動を見つめると、「なぜ、勉強を少ししかできていないのか」「なぜ、ゲームを多くやりすぎてしまうのか」が見えてきます。
また、比較するとわかるように、ターゲット行動とライバル行動の特徴は正反対。そこで、ついゲームをしてしまう理由を参考に、それと似た工夫を勉強にも施せば、つい勉強してしまう状態をつくり出せる、と考えられるわけです。
ではいったい、どんな工夫が考えうるのでしょう。
ライバル行動の特徴の1つめに「行動に移すのが簡単」とあります。行動科学者のBJ・フォッグ氏が、実行しやすさは継続につながると述べているように、ゲームは「アプリを起動させるだけ」でできてしまうから、ついやってしまうわけです。
一方、勉強では「勉強道具を取り出す」という手間がかかっているのだとしたら……。勉強もゲームと同じぐらいにまで、行動のハードルを下げればよいとわかります。そこで「テキストやノートを常に出しておく」といった改善策をとることができるのです。
また、ライバル行動の3つめの特徴に「すぐに成果が見える」とあります。結果が次の行動に影響を与えるのだそう。ゲームをクリアできたとき「楽しかった、またやりたい」と思うように、自分のメリットになるような結果が得られれば、人は同じ行動を繰り返すということです。
勉強ではすぐに結果が得られるとは限らないので、ご褒美を準備することをすすめます。「勉強したら、好きなスイーツを食べる」といった感じです。勉強内容を記録して、実行具合を可視化するのもよいとのこと。
このように、行動デザインシートを活用すれば、ターゲット行動とライバル行動の両方に着目して日々の行動を改善できるのです。
ターゲット行動・ライバル行動を書き出してみた
ターゲット行動を「勉強」、ライバル行動を「スマートフォンを見る」と設定して、それぞれの行動デザインシートを同時進行で作成しました。書き込んだ内容は、表の上段から順に以下の5項目です。
- ターゲット行動(ライバル行動)の内容
- ターゲット行動(ライバル行動)の特徴
- 上記特徴の具体例
- ターゲット行動(ライバル行動)の特徴を “反転” させたことを実現するための対策
- 具体的な改善案
STEP1.「ターゲット行動をしやすくする/ライバル行動をしにくくするコツ」を考える
最上段に、ターゲット行動(ライバル行動)をひとことで書き入れます。2段めには、ターゲット行動(ライバル行動)の特徴を記載。その内容を反転させたものを4段めに書き入れます。筆者の場合、こう書きました。
- ターゲット行動「勉強 ⇒(特徴)行動するのが大変 ⇔(反転)行動を簡単にする」
- ライバル行動「スマートフォンを見る ⇒(特徴)行動するのが簡単 ⇔(反転)行動のハードルを上げる」
以下、左側が「ターゲット行動」、右側が「ライバル行動」の行動デザインシートです。赤枠で囲ったところが、当該ステップで書くエリアです。
STEP2.「ターゲット行動が少ない/ライバル行動が多い理由」を考える
前のステップで書いた特徴をもとに、「なぜいま、ターゲット行動が少なくて、ライバル行動が多いのか」を考えて3段めに記入。筆者の場合はこうなりました。
- ターゲット行動「勉強するのは大変 ⇒(なぜ?)テキストの準備に時間がかかるから」
- ライバル行動「スマートフォンを見るのは簡単 ⇒(なぜ?)電源を入れるだけだから」
STEP3.「ターゲット行動を増やす/ライバル行動を減らす具体的方法」を考える
最後に、勉強習慣化につながる具体的な行動改善策を導いて、最下段に書き込みます。ライバル行動の表を見ながら「どうすればターゲット行動を、ライバル行動の特徴に近づけられるか」考えるのです。
ライバル行動の「行動するのが簡単」という特徴にならって、ターゲット行動を “簡単なもの” にするべく「机にテキストを置いておく・1日5分でOK」と書き込みました。これがすなわち「ターゲット行動を増やすための行動改善策」です。
同じようにライバル行動についても、「スマートフォンを見るハードルを上げるため、別室に置いておく」という具合で、「ライバル行動を減らすための行動改善策」を導きました。
「行動デザインシート」で勉強時間を増やせた!
行動デザインシートに書いた内容を1週間実践した結果、「スマートフォンを見る」という行動を減らして、勉強時間を増やすことができました! 理由は次の2点だと見ています。
1. 勉強のハードルを下げたから
これまでは「毎日勉強する」などフワッとしか考えていなかった筆者。今回、行動を簡単にするべく、机にテキストを出したままにし、席につけばすぐに勉強を始められるようにしたうえ、「1日5分でもいい」と勉強へのハードルを下げたところ、勉強に取りかかりやすくなりました。
「ライバル行動の特徴を取り入れる」という手法が、役に立ったのだと思います。
2. 無駄な行動を確実に減らせたから
勉強を妨げる行動の減らし方を徹底的に考えたことで、無駄な行動を自然となくせました。スマートフォンに手が伸びて勉強できない……という問題が解消されたのです。
加えて、自分なりの工夫として、「ライバル行動を減らすための行動改善策」に「スマートフォンを触りたくなったら、代わりに本を手に取る」というルールを決めたのも効果的でした。「別の本を読むくらいなら勉強を続けよう」と、勉強時間の増加につなげられましたよ。
筆者の例のように、ライバル行動を減らすため、「それをするぐらいなら、ターゲット行動を続けよう」と思えるような “別の行動” を何かひとつ決めるのもありだと思います。
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ターゲット行動とライバル行動を書き出すことで、行動改善方法を探る行動デザインシート。自分の行動を見つめ直せば、勉強の習慣化がきっと期待できます。勉強を続けられず悩んでいる人は、ぜひ試してみてください。