天才社会学者がやっていた。大量アウトプットを可能にする驚異のメモ術「ツェッテルカステン」って知ってる?

Niklas Luhmann(ニクラス・ルーマン)というドイツの社会学者は、メモにとったアイデアや情報を十分に活かし、クオリティの高い本や学術論文を大量に発表したそうです。その背景には、ツェッテルカステンと呼ばれるメモ術が存在したのだとか。今回は、そのツェッテルカステンの基本的なやり方と、筆者が実践してわかったことを紹介します。

ェッテルカステンというメモ術が、天才社会学者の大量アウトプットを支えた

ツェッテルカステン(Zettelkasten)とは、単一のアイデアや情報が書かれた個別のインデックスカード(標準サイズにカットされた紙)で、情報ネットワークを広げながら管理していくメモ術のことです。

Amazon の応用科学者である Eugene Yan 氏や、ジャーナリストの Jack Beaudoin 氏によると、Zettelkasten はドイツ語で、英語の slip box を意味する言葉なのだとか。slip は英語で伝票など「小さな紙」を意味します。

長い歴史のなかで、あらゆる識者がこの形式を用いてきましたが、特に有名なのは社会学者の Niklas Luhmannニクラス・ルーマン/1927–1998)氏です。

Luhmann氏は、約90,000枚ものインデックスカードでツェッテルカステンをつくりあげ、30年のあいだに70冊以上の本と、400近くの学術論文を発表したそうです(Beaudoin 氏および英語版 Wikipedia の Zettelkasten ページが示した数)。多作なだけではなく、それらはクオリティも非常に高かったとのこと。

Luhmann氏が90000万枚ものインデックスカードを収納していたキャビネットのイメージ

Luhmann 氏のツェッテルカステンは、6つの木製キャビネットに収納されたインデックスカードで構成されていた。上の写真はイメージ。

このメモ術は長くアナログ形式で行なわれてきましたが、現代では既存のアプリや、ツェッテルカステン用に開発されたソフトウェアを使用するなど、デジタル形式で行なわれているそうです。

 

ツェッテルカステンの特徴は、脳の神経細胞によく似ていること

従来のツェッテルカステンの大きな特徴は、「単一のアイデアや情報が書かれた数多くのメモで構成されている」ことと、「メモどうしがリンクしている」ことです。アナログの場合のリンクは、それぞれのメモに数字、文字、記号などの識別子をつけて行ないます。

だからこそツェッテルカステンは、脳の神経細胞によく似ているのです。東洋大学生命科学部教授の児島伸彦氏によると、私たちの脳内ではニューロン(神経細胞)がシナプスという結合部分を介してつながり、ネットワークをつくって情報を伝達しているそうです。このシナプスのつながりが強ければ記憶がしっかりと保たれ、シナプスのつながりが弱ければ、記憶が消え去ってしまうとのこと。

実際に Luhmann 氏も、ツェッテルカステンにおいて「ネットワークに接続されていないメモは忘れ去られる」と述べたそうです。

ツェッテルカステンは脳神経細胞のつながりによく似ている

すぐ始められる、ツェッテルカステンのやり方

博士号をもつ漫画家・ライターの David B. Clear 氏によると、アナログなツェッテルカステンなら、「ペン」と「(自分にとって)適切なサイズにカットされた紙」「その紙を入れておくもの」さえあれば、すぐに始められるとのこと。

たとえば100円ショップでも買えるシンプルなメモ帳や、スタック形式の小物ケースでも、空いている引き出しのなかに分類しておくかたちでもいいわけです。そこで筆者もアナログ形式でやってみることにしました。 付箋はくっついて紛失しそうなので手持ちのメモ帳を使います。

Clear 氏いわく、ツェッテルカステンは知識を管理でき、記憶を拡張し、アイデアどうしをつなげ、アウトプットを増やす驚異的なツールとのこと。ただし、それらを最大限に生かすには次の原則に従う必要があるそうです。

  1. カード1枚につき1アイデア(焦点がブレない)
  2. カード1枚で完結(そうすればリンクも入れ替えも自由自在)
  3. 必ずほかのカードとリンク(脳神経細胞と同じくネットワークに接続されていなければ忘れ去られる)
  4. リンクの意味を注釈しておく(見直したときに思い出せる)
  5. 必ず自分の言葉で書く(自分の言葉ならいつでも内容を理解しやすい)
  6. 参考文献を残しておく(盗用防止および原点回帰ができる)
  7. 自分の意見があれば書き加えておく
  8. どのカテゴリに入るかなど気にする必要なし
  9. リンクが無作為になったら説明用のカードも追加(混乱しないように)
  10. アイデアがまとまりそうになったら、その流れを記したカードを作成
  11. カードを削除しない(どう思考が展開したかわからなくなるから)
  12. 恐れずにカードを追加する

では、これらをふまえて Clear 氏の説明をもとにツェッテルカステンを始めてみます。追跡したい情報やアイデアがあれば書き留め、片すみに識別子(数字など)を書いておきます↓↓↓

Zettelkastenの例。手書きの一例を添えた一番最初の番号振り分け。

「1」と「2」のあいだにカードを挿入したい場合は、「1/1」「1/2」「1/3」といった具合に識別子をつけます↓↓↓

Zettelkastenの例。カードを挿入して識別子をつけたもの

さらに「1/1」と「1/2」のあいだに新しいカードを挿入したいときの識別子は、「1/1/1」「1/1/2」「1/1/3」となります。ほかも同様のルールで行ないます↓↓↓

ツェッテルカステンの展開を示した図

そして、次はこのメモ術に欠かせないリンクの方法です。とはいえ、リンクさせたいカードの識別子を書くだけなので、ビックリするほど簡単です。たとえば「1/1」を「1」にリンクさせる場合は、「1/1」のどこかに目立つ色で「1」と書きます↓↓↓

ツェッテルカステンのリンクの仕方の説明

筆者が書いたものには欠けていますが、Clear 氏が述べたとおり、のちのち見た際に混乱しないよう、なぜリンクしたか注釈しておくことをおすすめします。

また、孤立が生じないよう、ひとつのカードはリンクするだけでなく、必ずほかのカードからリンクされているか、後述のとおりタグがつけられている必要があります(上の画像は途中のプロセスだとご解釈ください)。

カードにタグをつけた場合は、あとでタグすべてを別のカードにリストアップして、そのタグに該当するカードの識別子を書いておくといいそうです。

ツェッテルカステンのタグをリストアップした例

ここまで、アナログなツェッテルカステンの基本的な手順を、筆者が実践しながら説明しました。この実践では、社会で活かせるアイデア創出を試みましたが、違うかたちでもツェッテルカステンを活用できそうです。

ツェッテルカステンは勉強にも役立つ

全体をざっくり記憶してから、徐々に細分化して覚える
 既に知っている知識や情報と「関連づけ」して覚える

これなら、ツェッテルカステンも勉強に活かせるのではないでしょうか。さっそく入門経済学のさわりをザッと読み、カードにその情報を自分の言葉で書いたり、小問に答えたりしながら、個々に識別子を入れてみました↓↓↓

ツェッテルカステンで勉強してみたメモ

つながりは、こんな感じです↓↓↓

ツェッテルカステンで勉強してみたメモを構図で示したもの

ツェッテルカステンをやってみた感想

Clear 氏は、ツェッテルカステン “ではない” 通常のメモの問題点として、アイデア間のつながりがなく、貴重なアイデアをムダにしかねないことを挙げていました。筆者が実際にやってみて感じたことも、まさに “それ” です。

加えて1枚でも意味や価値がある、独立性の高いメモが貯まっていくことに喜びが芽生え、もっと増やしていきたい気持ちが生じたことも大きな発見です。これならアイデアも無理なく広がるはず。

また、勉強において感じた最大のメリットは、完結した1枚のカードを視界に入れると、ほかのカードの内容が意識にありつつも、自然とそれらがフォーカスから外れるので、常に目の前のカードに集中できるといったことです。

初めて挑戦した筆者が書いたものはまだ不十分ですが、書く内容がもっと細分化され、1枚のカードの原子性が高まれば、カードの内容を記憶するのも容易になるでしょう。カードが増えるほど収納には工夫が必要ですが、利点が大きいのでしばらくやってみようと思います。

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記憶を促進させ、アイデアどうしをつなげ、アウトプットを増やしてくれるメモ術・知識管理の「ツェッテルカステン」を紹介しました。よろしければ一度お試しくださいね。

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